柚月裕子さんの「盤上の向日葵」読了しました。
初めての作家さんです。
2018年の本屋大賞2位の作品で、気になったので、図書館で予約していました。
〈STORY〉
埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。
それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ。
世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とはー⁉︎
(「BOOK」データベースより)
〈REVIEW〉 ※ネタバレあります
遺体とともに埋められていた将棋の駒の持ち主を捜査する石破と佐野。
それと並行して語られる上条桂介の過去。
竜昇戦が行われている天童市は、毎年ふるさと納税をしていたので、馴染み深いです。
桂介の出身の長野県諏訪市も、息子の病院で長野には何回か行っていて、諏訪湖のホテルにも2回宿泊しました。
将棋は、駒の動かし方がわかる程度の初心者です。
時々主人と指して、素人同士何となく指している感じです。
この本は、将棋界の「砂の器」と言われているそうですが、桂介の過去が語られていくと、その理由がわかります。
母親が自殺し、父親は桂介に新聞配達をさせ、暴力を振い、ギャンブルに依存。
そんな時出会ったのが、唐沢。
唐沢は自身が捨てた将棋雑誌を、回収場所から抜き取っていた桂介に声をかけます。
それから週に一度、将棋を指し、食事やお風呂を世話し、虐待されていることに気付きながらも、見守ることしかできない。
桂介の将棋の才能に気付いた唐沢は、自分が全て面倒を見る覚悟で、奨励会に入会させようとしますが、父親の庸一に邪魔され、断念します。
そこで、桂介と唐沢の交流も途絶えてしまいます。
あそこで父親を捨てて、唐沢のもとに行っていたら違う未来があったのに。
どんなに酷い親でも実の父親を見捨てることはできないのか。
終盤に桂介の出生の秘密も語られますが、そこまで酷い生い立ちにしなくても…
結局、“いかれた血”に勝てず終わってしまうのか。
上京してからの唐沢との関係は、手紙のやり取りだけ、唐沢が亡くなった時も、お悔やみの手紙があったとありましたが、何だか薄いような。
後半は東明とのことばかりで、もう少し唐沢に登場してほしかった。
東明の遺体を埋め、香典代わりとして駒を一緒に埋めた理由もよくわからなかった。
恩師の唐沢から譲り受けた大切なものなのに。
東明に騙されて一度は失い、必死にお金を貯めて買い戻したものなのに。
駒がなければ、捜査が桂介に及ぶことはなかっただろうに。
竜昇戦のラストが、二歩の反則負けというのはびっくりして、私も「あっ」と声を出しそうになった。
そしてその後の東明との最後の一局の回想シーン。
なるほど、です。
刑事コンビは最後まで石破が好きになれず。
そしてラストは容疑者を眼前に、情けない…
唐沢が教師になろうと思ったきっかけは、小学生の時の担任の先生との出会いにありました。
学ぶことの楽しさを教えてくれた、担任の高田の言葉が心に残りました。
「世の中には、知らないことがたくさんある。知らない国、知らない街、知らない人。いままで知らなかったことがわかると、すごく嬉しくなって、もっといろんなことを知りたくなる。その楽しさを知らないなんて、人生の喜びの半分以上を捨てているようなものだぞ」(p63-64)
「もし、君が私に感謝しているのなら、その気持ちを、以前の君と同じように、知る楽しさを知らない子に教えてあげなさい。私も君と同じように、ある人から知る喜びを教えてもらった。そして、私は君に知る喜びを教えた。今度は、君の番だ」(p65)
高田が知る喜びを誰かに教えてもらい、唐沢も高田に教えてもらった。
そして唐沢も教師になり、たくさんの教え子を持ち、定年後は桂介と出会い、将棋を教えた。
同じように桂介にも、誰かに将棋の楽しさを伝えていってほしかったなと思います。
9月に千葉雄大くん主演でドラマ化されるみたいです。
千葉くんも意外でしたが、佐野を女性にするっていうのが…。
2019年9月8日(日)22時〜
毎週日曜日、全4回